こんにちは、40代オッサンtrrymtorrsonです。
仕事人間でしたがきっつい上司に潰され半年くらい休職した経験があります。
休職期間中は仕事のことを一切忘れて、デスメタルTシャツを着込んで、デスメタルを聴きながら療養していたんですよ。
さて休職して自分と向き合う時間ができたので平成の振り返りをしたいんですが、僕にとって平成の30年間(から令和の現在まで)ほぼどっぷりヘヴィメタルを聴いて過ごしてきたんですね。
そこで平成の回顧録的観点から、もはやクラシックだが色褪せないヘヴィメタルの名盤を紹介します。
歴史は風化したり断絶したりしますが、優れた作品を聴いた時の衝撃は鮮烈に思い出されます。
第40回目はノルウェーのEmperor(エンペラー)の4枚目のフルアルバムにして最後の作品となった「Prometheus : The Discipline of Fire and Demise」です。
「Prometheus : The Discipline of Fire and Demise」は2001年リリースで、2001年は平成13年になります。平成13年は僕が27歳でした。
■2001年の日本(wikipediaより)
◆国民の圧倒的支持により小泉内閣が誕生◆ローライズジーンズやロングマフラーが流行した◆ドメスティックバイオレンスの防止と被害者の保護を図るため、DV防止法が施行された◆シャープが液晶テレビ「AQUOS」を発売◆中央省庁再編によりこれまでの1府22省庁から1府12省庁へ再編統合された◆ユニバーサルスタジオジャパン(USJ)が大阪市に開業◆さくら銀行と住友銀行が合併して三井住友銀行誕生◆ウィキペディア日本語版が開設される◆大阪教育大附属池田小児童殺傷事件◆東京ディズニーシー開園◆アメリカ同時多発テロ事件◆AppleがiPod発表◆JR東日本がSuicaのサービスを開始◆テレビ朝日で第1回M-1グランプリが放送。初代王者に中川家
◆ベストセラー:宮部みゆき『模倣犯』新しい歴史教科書を作る会『新しい歴史教科書』◆映画:『ザ・セル』『ブレアウィッチ2』『ハンニバル』『スターリングラード』『バトル・ロワイヤル』『パール・ハーバー』『千と千尋の神隠し』『トゥーム・レイダー』『ワイルド・スピード』『メメント』『ハリー・ポッターと賢者の石』...etc.
先日、Emperorのサモスの別バンド、Zyklonが2001年に発表した「World ov Worms」のことを書きました。
本体のEmperorも、同年にこの「Prometheus : The Discipline of Fire and Demise」を発表しています。
この背景を察するに、サモスはZyklonで自分の作品を発表したかったのであり、一方、Emperorのフロントマンであるイーサーンは、自らが主導権を握って「Prometheus~」を完成させたかったんだろうと思います。
そのまんまですが。
その証拠に、「Prometheus~」は全曲の創作をイーサーンが行い、サモスのクレジットはアディショナル・ギターにとどまっているんですね。
つまり、「Prometheus~」は3作目「Ⅸ Equilibrium」の延長にある作風であると同時に、イーサーンのソロアルバムといってもよいかもしれません。
かといって、サモスもタリムも一切妥協していませんよ。
本作は発表からすでに20年以上が経っていますが、全く色褪せないヘヴィメタルの名盤ですね。
冒頭に書いたように今聴いても初めて聴いたときの感動が新鮮に甦る、恐ろしいほどの完成度の高さです。
キーボード(チェンバロ?)による荘厳でありながら不穏なイントロが印象的で、そのイントロからタリムのブラストビートへ連なる「The Eruption」。
2曲目「Depraved」と3曲目「Empty」と、激烈なEmperorのブラックメタルでありながら、精緻かつ重厚に創り上げられたゴシック建築の壮麗な城郭のよう。
冒頭の3曲が圧倒的な完成度でインパクト大なんですが、本作の真骨頂はアルバム中盤の3曲なんですよね。
「The Prophet」「The Tongue of Fire」「In the Wordless Chamber」はイーサーンの歌唱が素晴らしく、さらに濃密で、オペラを観るようなドラマ性と様式美を誇る素晴らしい名曲群です。
とにかく全曲でイーサーンのヴォーカルが素晴らしいし、イーサーンとサモスのギターワーク、タリムのドラムワークが計算されつくしています。
シンフォニックでありクラシカル。プログレッシブ・ブラックメタルとも形容されています。とにかく完全にアートの域に達しています。
「Grey」や「He Who Sought the Fire」も、さらに作品の後半に向けて不協和音と混沌を極めたようなアレンジが施されていて、何度も感情を揺さぶられます。
そして、ラストの「Thorns on My Grave」!
猛烈な全編ブラストの曲を最後に持ってくるなんて!シビれますね。
この世を去る者の最期の願いが暗示されたイーサーンのスクリームに、強烈なカタルシスを覚えます。
彼らなりの潔い終局の宣言と言えるでしょう。
ブラックメタルの帝王でありながら、1991年から一旦活動を終了する2001年までのあいだに4枚の作品しか残さなかった彼ら。
しかし、シンフォニック・ブラックメタルとして燦然と輝く最高傑作「Anthems to the Welkin at Dusk」を残し、そこからさらに創作の幅を拡げ、実験的な野心作「Ⅸ Equilibrium」を経て、最終章「Prometheus~」という高みに到達しました。
唯一無二の崇高なミュージシャンシップと言うほかありません。
イーサーンは本作をもってEmperorの活動に区切りをつけましたが、並行してやっていたPeccatumやIhsahnといったソロプロジェクトに軸足を移しました。
メタルというよりちょっとクセの強い作風なので聴く人を選ぶでしょう。
Emperorが本物のヘヴィなメタルだったのは、サモスとタリムあってこそでしょうね。
Emperorは2023年現在においてもイーサーン、サモス、タリムという不動のトリオ編成で活動中なので、もしかしたら新作の発表があるかもしれませんね。期待大です。
ブラックメタルをただのうるさい馬鹿げた音楽だと思ってはいけない。極めて芸術性の高い作品もあるのだ。若い頃ビートルズの先鋭的な音楽を聴いて衝撃を受け、50代、60代になってもマニアで居続ける人がいるが、ブラックメタルも同じだ。おそらく50代、60代になっても愛聴するだろう。そう思っています。
僕も40代半ばになりましたが、変に老成することなく、このときのEmperorのように粗削りで暗く尖ったオッサンでありたいと思います。