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【戦史研究16】山下奉文と武藤章 有能であるがゆえの組織人の悲哀『指揮官と参謀 コンビの研究』半藤一利 著

こんにちは、40代オッサンtrrymtorrsonです。

 

僕は戦史の専門家ではありませんが、あくまで趣味の範囲で、個人的な観点でライフワークとして1945年の敗戦に至る真相を究明したいと思っています。

その方法論として、これまでの15回のレポートで極東国際軍事裁判東京裁判)の被告人やGHQ戦争犯罪人リストからさかのぼって、軍人をピックアップして焦点を当てる。また、時系列に並べた事件に焦点を当てる。こういうことをやってきました。

もう一つ話の前提として、「敗戦」「戦犯」といった「歴史的結果」から事件や人物を極力評価しないこと。軍人を性悪説で見ないこと。

 

また、半藤一利さんの『指揮官と参謀 コンビの研究』という本を教科書として、自分なりの日中・太平洋戦争の解釈を試みてきました。

この本は読みやすくて、戦史研究の入門書にぴったりの本だと思います。

 

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今回取り上げるのは、山下奉文(ともゆき)陸軍大将と武藤章陸軍中将です。

 

半藤さんは、この山下と武藤の章を次のような印象的な書き出しで始めます。

 

ある烙印をおされ、ひとたび主流から離れたとき、組織に生きるかぎりは非情の人事に身をまかせるほかはないのだろうか。

われわれの周辺でも、組織のため大きな働きをした有能な人が、上長に好まれなかったばかりに、意外に不幸な末路をたどる例をしばしばみる。その人の人間性や、主義主張とはなんら関係ないことで。

太平洋戦争の戦史のなかにも類型を数多く見出だすことができる。これはその典型といっていい二人である。

 

ここまで書いてきたように、素人ながら僕の戦史研究への興味は、東京裁判によって裁かれた軍人官僚たちの政治的判断がどうだったのかということが出発点です。

辻政信牟田口廉也山本五十六などは例外で、戦犯として裁かれたわけではないですが。

 

今回の武藤章はその意味で太平洋戦争の結果に大きな影響を与えて東京裁判で絞首刑となった典型的な軍人官僚でした。

しかし後に政治的主義主張の駆け引きに敗れ、東條首相にも疎まれていたため、フィリピンの前線に送られます。

半藤さんが書いているように、実は武藤は対米英戦争の緒戦の快勝にも関わらず、早期講和を主張し、東條の怒りを買っていたのです。

 

一方の山下奉文も、参謀本部部員、陸軍省軍務局課員、海外駐在を経て陸軍省軍事課長、陸軍省軍事調査部長を務めます。

また「一夕会」という研究会メンバーに所属し、当初はエリート軍人として政治的なグループの一員でもありました。

 

そんな山下ですが、彼のキャリアの大きな転機となったのが「二・二六事件」でした。

事件当時少将で、軍事調査部長であった山下は、二・二六事件の首謀者たちに温情をかけてほしいと天皇に訴えたことが、天皇の怒りを買いました。

この事件を境に陸軍中央から外されていくんですね。

 

山下は開戦以来、中国戦線~関東防衛軍司令官(満州)~マレー作戦~シンガポール攻略~満州~フィリピン防衛軍司令官と、常に前線を指揮した将軍です。

出世して陸軍中央のマネジメント層に配置される将軍が多いなかで、山下ほど前線に張りついた人がいたでしょうか。

 

フィリピン軍司令官に任命された山下は、自軍の参謀長として、かつて政治的軍人で鳴らしたが本流から外されていた武藤章中将を指名するんですね。これが面白い人事の妙です。

 

山下大将は、武藤が評されるほど政治的軍人ではなく、緻密で合理的な思考力をもつ有能な軍人であることを見抜いていました。

一方の武藤も山下の統率力と人間的魅力を理解しており、彼の期待に応えようとしたのです。

 

陸軍組織のピラミッドから外されて、もはや手遅れであるフィリピン防衛を託された山下と武藤でしたが、互いの能力を認め合い、互いを必要としたのですね。

前線の司令官の山下も、軍政で一時代を築いた武藤も、天皇の忠臣としてフィリピンの戦いを最後の奉公と意気投合したのでした。

 

山下も武藤も、敗戦に際して戦場で自決することを選びませんでした。

生きて敵味方の多くを殺した責任を背負うことを選んだのですね。

その後、武藤は東京裁判で軍務局長時代の開戦謀議の追及を受け、A級戦犯として絞首刑の宣告を受けます。

山下はマニラ軍事裁判で、住民虐殺の責任を負い、同じく絞首刑となります。

 

10ページほどの短い章のなかに、山下と武藤の軍人としての生涯だけでなく、何とも言えない組織人の悲哀のようなものを余すところなく描ききる半藤さんの筆力に恐れ入ります。

 

本日の記事は以上です。 

 

 

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