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『なぜ景気が回復しても給料は上がらないのか ~労働法の「ひずみ」を読み解く』倉重公太朗他著

こんにちは、40代オッサンtrrymtorrsonです。 

 

今回のブックレビューは、『なぜ景気が回復しても給料は上がらないのか』という本です。

倉重公太朗さん、近衛大さん、内田靖人さんという弁護士の方による共著で、労働調査会から発行されている新書タイプの本となっています。

 

本書の一番の特徴は、いずれも使用者側に立って労働問題を扱われている弁護士の方々が書いているということです。

 

なぜ給料を上げるのが難しいのかということについて、使用者の立場と労働者の立場との双方から中立な立場に立って、書いてらっしゃいます。

 

これが労働問題に関心がある人には非常に興味深い内容で、勉強になります。

 

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著者代表である倉重公太朗さんは、労働問題の大きな障害になっているのは、労働法の「不利益変更禁止の原則(不利益変更法理)」と「解雇権濫用禁止の原則(解雇権濫用法理)」であると述べています。

 

これが本書の大きな論点です。

 

ほかには、長時間労働や過重労働の問題、残業代請求事件、合同労組、メンタルヘルスや労災の問題などが扱われています。

 

僕は「不安抑うつ状態」という診断書でもって半年間仕事を休んだ人間ですから、会社側弁護士による、メンタルヘルス問題に関する記述は興味深く読みました。

 

著者の御三方に共通しているのは、景気が回復しても給料が上がらないのは、現行の労働法の「ひずみ」があるからだ、というところなんですね。

 

そして終章において、労働法の「ひずみ」を解消すること、つまり労働法改革によって、使用者と労働者のあるべき関係性、労働時間や賃金決定の在り方を提示する内容になっています。

 

繰り返しになりますが、本書は使用者側弁護士の立場から問題提起されているのが大きな特徴です。

 

本書に書かれていることはどれも重要な論点ではありますが、特に興味を引いた部分について、一つ引用したいと思います。

 

それは、個人加入の労働組合、つまり「合同労組」や「一般労組」や「地域ユニオン」といわれるものについてです。

 

合同労組との団体交渉が、会社側にとって負担が大き過ぎると書いてらっしゃるんですね。

 

この章の執筆を担当している近衛大さんは、合同労組の問題点として次のように書いています。

 

(合同労組の4つ目の問題点は)合同労組が求めてくる金銭解決が、会社の状況に配慮がない点だ。

筆者らが団体交渉に関わる際、一番苦慮する点である。企業内組合であれば、会社が存続しなければ労働組合も存続できない。だから、企業内組合は、使用者と労働者双方の立場の均衡を取りつつ、労働者の権利を実現することに努力する。例えば、会社の賃金原資を横目で見つつ、どれだけ賃上げを勝ち取れるか、という闘いである。

しかし、合同労組は、金銭解決が主たる目的であるから、会社の存続には興味がない。会社がつぶれてもいいから取れるだけ取る、自分さえよければそれでいい、という発想が根底にある。このような問題点があるのなら、団体交渉などしなくてもよいではないかというと、そういうわけにはいかない。団体交渉に応じなければ、「不当労働行為」と認定されてしまう恐れがあるからである。

 

要するに、合同労組が会社の都合を考えずに要求してくるのに、会社側はそれに真摯に応じなければ「不当労働行為」に問われてしまう。

「不当労働行為」とは、文字通り「労働組合に対する不当な行為」ということで、労組の団体交渉に応じなければ労働法違反になってしまうということです。

 

著者は合同労組の悪い面を強調したいのではなく、会社側にとって負担が大き過ぎることが問題だというのですね。

会社側も労働者側も疲弊してしまう。

あっせんや労働審判の申し立てという方法もあるではないかと。

 

著者らは会社側の弁護士です。

本来、会社の事業は拡大したり縮小したりするもので、それに応じて人員を増やしたり減らしたりしなければならないという立場です。

 

しかし、合同労組はそんなことお構いなしだと。

 

僕らはともすれば、労働者をないがしろにする、非正規雇用労働者を低賃金で使い潰すようなブラック企業は、潰れてしまえばいいのだと強弁しがちです。

 

今すでに日本の賃労働の価値は低下し続けており、多くの識者が指摘するように、労働者の平均年収は300万円、200万円、150万円となってしまいます。

もはや労働者の生活が成り立たないのに、会社だけを存続させて何の意味があるのか?

 

しかし、よくよく考えてみるとそんな単純な問題ではないはずなんですね。

 

世の中そんなブラック経営者ばかりなはずはないし、立派な経営者でも、会社の経営が危機に陥ることは当然ありますよね。

 

そんなとき、使用者にとっても労働者にとってもベストな労働法はどうあるべきかを考えることが必要だということです。

 

本日の記事は以上です。