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会社は「監獄」であり「奴隷商船」なのだ。『サボる哲学』栗原康 著

こんにちは、40代オッサンtrrymtorrsonです。

 

三菱電機の社員がパワハラ長時間労働からうつ病を発症し休職。

男性は休職期間が満了したとして解雇されましたが、長時間労働を理由とした労災認定を受けて、会社側は解雇の取り消し。

男性は9年ぶりに職場復帰を果たしたというニュース。

 

非常に考えさせられるとともに、複雑な感情を抱かせる話です。

 

diamond.jp

 

パワハラ長時間労働で休職に追い込まれたうえ、解雇される。

自分なら、9年も闘争してその会社に戻りたいと思うだろうか・・?

 

詳しい事情は分かりません。

男性は、三菱電機で働く仕事に誇りとやりがいを持ち、何としても復帰したいという意志を持っておられたのだと思います。

または、そんな会社と真正面から戦って正当な権利を取り戻したい。

そういうことだったかもしれない。

会社そのものに悪い感情がなく、良い応援者がおられたのかもしれません。

 

しかし一方で、一般論として考えたとき、言葉は悪いですが、使い捨てられた会社に、もう一回使ってくださいと言うのは、自分のプライドが許すでしょうか?

 

いま、タイトルがツボったので買って読んでいるのが、『サボる哲学』という本です。

著者の栗原康さんは、アナキズム研究を専門にしている作家です。

哲学というと堅そうですが、すごく奔放な文体です。

 

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栗原さんはこの本のなかで、フランスの哲学者ミシェル・フーコーや、アメリカの歴史家マーカス・レディカーを引用して、「統治テクノロジー」や「奴隷労働」について言及しています。

 

ミシェル・フーコーは権力と知識の関係を分析し、それが社会統制にどう利用されてきたかということを研究しています。

18世紀、ヨーロッパで資本主義経済が拡大し、工場労働が普及していきます。

 

フーコーは著書『監獄の誕生』のなかで、この工場労働の普及により、人間を支配する装置が作り出されたと論じています。

 

フーコーは二つの概念を提示しています。

▶「身体の解剖政治学

人間を一つの空間(会社、学校、教会、病院、監獄、工場など)に囲い込み、こと細かに監視し、決められたルールに服従させること。

▶「人口の生政治学

「種」全体の生存を絶対化し、個人の生を無力化すること。

会社の収益の増加や経営の効率化を優先するために、イレギュラーな社員を解雇することは現代社会の当然のルールだと信じられています。

 

マーカス・レディカーは、工場の労働規律に着目するのではなく、それ以前の植民地のプランテーションでの奴隷労働に着目しました。

黒人奴隷を絶対服従のもとに酷使しただけでなく、そのヨーロッパに莫大な富をもたらした奴隷船貿易もフーコーの言う「監獄」でした。

当時の商船での船長の権力は絶大で、水夫は船長に絶対服従

船長に逆らうと食事を制限されたり、ムチ打ちや拷問。

こうして水夫たちは「服従と規律」の身体に作り上げられました。

 

そんな商船が海賊に襲撃されます。

海賊はまず船長の頭を鉄砲で吹っ飛ばす。

そして、水夫たちは拍手喝采。海賊の仲間入りをするというのです。

戦闘の時だけはリーダーの命令に従うのですが、普段の海賊たちは船長の専制権力を嫌い、仲間は自由平等で助け合うというのですね。

そして、労働そのものに服従させるのではなく、奪った金で遊ぶ。金が無くなったらまた奪う。栗原さんの言う「ゼロ労働精神」。

レディカーはこのように、当時、多くの商船の船乗りが海賊になったのは、劣悪な労働環境のためであったと指摘しています。

その後、統治国家により徐々に海賊たちは討伐されていくのですが、服従と規律の監獄労働への反発は根強く、海賊は長く一定の勢力を保ったといいます。

 

栗原さんはこのように、フーコーやレディカーが指摘した画一労働の起源を紐解きながら、自身の「サボる哲学」を展開しています。

 

こうして見てくると、労働組合や労基署に相談して現状の改善を求めるというのは、「監獄」のなかでの待遇をもっとよくしてくれ、という話に思えてくる。

 

本当の勝利は、船長の頭を吹っ飛ばすことではないのか?

 

現実にはそういうわけにはいきません。

しかし、会社、さらには現代社会は「監獄」であり「奴隷船」ではないのか。

 

海賊のススメではないですが、組織社会からドロップアウトした人間にとって、会社と社員、組織と人間の精神的呪縛から自由になって、まったく新しいサバイバルの知恵、哲学理念を構築しなければならないと思います。

 

本日の記事は以上です。

 

☟『サボる哲学』栗原康 著(NHK出版新書)

☟『監獄の誕生』ミシェル・フーコー 著(新潮社)

☟『奴隷船の歴史』マーカス・レディカー 著(みすず書房