こんにちは、40代オッサンtrrymtorrsonです。
今回読んだのは、みうらじゅんさんの『マイ仏教』です。
みうらじゅんさんは、1997年に「新語・流行語大賞」に入賞した「マイブーム」の生みの親ですね。
みうらじゅんさんといえば、僕がみうらさんの存在を知ったのは「タモリ倶楽部」という番組に頻繁に出演されていたからです。
ちなみにタモリ倶楽部は今年(2023年)の4月に終了したようですね。
僕はこの番組が学生時代から大好きで、一時期は毎回録画して熱心に観ていました。
ディープな趣味の世界をテーマにその道に精通したゲストを招いて掘り下げる番組でしたね。
安斎肇さんとの「空耳アワー」も、僕は洋楽ロックが大好きなので大ハマりでした。
で、その「タモリ倶楽部」に、みうらじゅんさんが出ていて、「アウトドア般若心経」というプロジェクトを披露されていました。
「般若心経」とは、大乗仏教の根本思想を260文字で著した最もポピュラーな教典です。
みうらさんはこの「般若心経」を全国津々浦々の街の看板から一文字ずつ写真を撮って(「写経」)、全文を完成させました。
僕は多少仏教をかじっているので、このみうらさんの「アウトドア般若心経」のあまりの凄さに衝撃を受けたんです。
「耨」とか「羯」なんて文字は、日常生活で目にすることはまず無いですから。
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前置きが長くなりましたが、このようにみうらさんは、仏教・仏像マニアとしても有名で、そのみうらさんが、自身の仏教観を書き下ろしたのが、「マイ仏教」です。
これがとにかく面白い。
それと同時に深いんですね。
幼少期にウルトラマンの怪獣にハマり、小学4年生になって「仏像」にハマったみうら少年。
仏像の「異形の佇まい」にグッときて仏像ブーム到来。
お寺の住職になるのが夢で、自分が寺の息子に生まれなかったことを悔やんだそうです。
アイテムやグッズを収集することをみうらさんは「ホビー教」と呼びましたが、そのコレクションも「いつかは散逸する」という「諸行無常」を感じたそうです。
そして、吉田拓郎やビートルズやボブ・ディランにハマった青春時代。
ビートルズのジョン・レノンが「イマジン」をリリースしたときに、寺の住職になる夢を思い出し、自分の寺を「イマ寺院」と名付けます。
みうら青年は、それだけではなく、「イマジン」の歌詞に「般若心経」の「色即是空」との共通点を見出すなど、仏教的思索も深めていくことになります。
「色即是空」とは、「色(物質が存在する)」と見えるものは実は「空(存在しない)」であり、しかし、「空(存在しない)」と見えても実は「色(物質が存在する)」、すなわち「色」と「空」は同一であるという、仏教の哲学思想の一つです。
美大に進学し、アートやロックの世界に理解を深めるみうらさん。
横尾忠則さんや、ジョージ・ハリスンの「ハレ・クリシュナ運動」に出会うことで、アートやロックと、仏教の教義をクロスオーバーさせる、独自の「マイ仏教」を確立していきます。
みうらさんの「マイ仏教」の真骨頂は、ジョージ・ハリスンが模索した「自分探し」を踏まえてそれを発展させ、実は「自分探し」よりも「自分なくし」のほうが大事なのではないかと喝破したことです。
お釈迦さんの教えにならい、「自分探しの旅」ではなくて、「自分なくしの旅」を目指すべきだと。
この「自分なくしの勧め」こそ、本書のメインテーマとなっています。
仏教における「地獄」思想の解説では、「松本清張地獄」と呼んだり。
書家の相田みつをの「人間だもの」を「人間けだもの」と呼んだり。
「人の機嫌を取る」ということの重要性を説き、「自分をなくして、相手の機嫌を取る」行為を「修行」と定義し、これを「僕滅運動」と呼んでみたり。
その意味では、いわゆる接客業も、相手の機嫌を取るという修行という意味で「接客行」だと。
お釈迦様の教えに対するみうらさんの深い理解は、先ほどの「自分なくし」に現れています。
みうらさんは「自分なくし」の別のたとえとして、人と比較してはいけないということを言います。
みうらさんはこれを「比較三原則」と呼びます。
「他人」と「過去」と「親」。
この三つと自分を比較してはいけないとみうらさんは言ってるんですね。
「そこがいいんじゃない!」「不安タスティック」「グレイト余生」。
仏教哲学を深く理解するからこそ連発される数々の造語が実に痛快です。
もちろん仏教の基本的な教義に関する解説も縦横無尽に散りばめられています。
俗世にまみれながら、仏教的な深い思索を重ねたみうらさん流の仏教入門書。
必読です。
ちなみに、みうらじゅんさんの「自分なくし」を始めとする仏教観については、2020年3月にNHKの『最後の講義』という番組で放送されました。
とても面白くて興味深く拝見しましたが、現時点ではNHKオンデマンドでも視聴することができません。
Amazon.co.jp: 最後の講義(NHKオンデマンド)を観る | Prime Video
非常に残念です。
NHKオンデマンドのこの件については、別の記事で書きたいと思います。
本日の記事は以上です。
☟『マイ仏教』みうらじゅん 著(新潮社)