こんにちは、40代オッサンtrrymtorrsonです。
今回の読書レビューは、作家で元外務省主任分析官である佐藤優さんの『読書の技法』です。
佐藤さんの「読書法」は、その辺の半端な読書法ではありません。
佐藤さんは元外務省官僚なので、外交における国際情勢の分析に携わった経験があり、そういう事や人のことを「インテリジェンス」と呼んでいます。
佐藤さんの著書には、この独特の「インテリジェンス」という用語が随所に出てきます。
ちなみに「Intelligence Officer」や「Intelligence Operative」は、「諜報員」といった意味になります。
まさに外交の最前線、国家間の情報戦の最前線にいて、膨大な量の資料や文献や学術書を、しかも英語、ロシア語などの原書を大量に読破する。
そういうインテリジェンスの世界で培われた読書法の神髄が、余すところなく公開されています。
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標準的なビジネスパーソンの場合、熟読できる本の数は新書を含め1ヵ月に6~10冊だろう。つまり、最大月10冊読んだとしても1年間で120冊、30年間で3,600冊にすぎない。
3,600冊というと大きな数のように見えるが、中学校の図書館でもそれくらいの数の蔵書がある。人間が一生の間に読むことができる本の数はたいしてないのである。この熟読する本をいかに絞り込むかということが読書術の要諦なのである。
職業作家になってからも、書きたいことがたくさんある。過去3年間は、400字詰め原稿用紙換算で、月1,000枚を超える執筆が続いている。それでも、筆者自身が書きたいと思っていることの、10分の1にもならない。知りたいこともたくさんある。
そのために、新しい情報をインプットする時間を日に最低4時間は確保するようにしている。
頭の中で浮かんでいるテーマはそれこそ100近くあるが、人生の持ち時間があと20年程度とすると、その半分も処理することができないであろう。仕事だけでなく読書についても優先順位をつけることが必要とされる。
佐藤さんは以上のようなことを念頭において、読書をし、著書を執筆されています。
そして本書の内容に入っていくわけですが、第1部において、「多読の技法」「熟読の技法」「速読の技法」が書かれています。
速読の本というのはそれこそ山のようにあるわけですが、佐藤さんは上に書いた通りの明確なコンセプトにより、圧倒的な深さの多読・熟読・速読の使い分けを解説されています。
そして本書の心臓部といえる第2部では、なんと高校レベルの教科書と学習参考書を駆使した学習法について、大きくページを割いて詳細に解説されています。
分野では、「世界史」「日本史」「政治」「経済」「国語」「数学」。
書籍では、マルティン・ハイデッガーの『存在と時間』から村上春樹の『1Q84』、梶原一騎の『巨人の星』に至るまで、膨大な本を引用しながら、佐藤流の読書法と勉強法を披露されています。
「世界史はこう読むのか!」
「国語の教科書はこう勉強するのか!」
まさに驚きの連続。
佐藤さんは他の著書でも高校の教科書の学習の重要性を説かれています。
なぜ、高校の教科書なのか?
佐藤さんはいろんな所に書いておられるのですが、本書の冒頭でこのように書かれています。
たとえば、微分に関する知識をまったく持たない人が、金融工学の専門書を読んでもまったく理解ができないので、時間の無駄だ。あるいは、哲学の基礎知識を欠く人がドイツの社会哲学者ユルゲン・ハーバーマスの『コミュニケイション的行為の理論』を読んでも理解することができない。
また、本書の中ほどにもこのように書かれています。
たとえば高校段階での数学に不安があり、行列、数列、微分法、積分法がまったくできないのに、近代経済学や統計学を身につけようとしても、無理がある。その際は数学の基礎力をつけて再チャレンジするしか、知識を着実に身につける道はない。
佐藤さんのおっしゃるとおりです。
自らの浅学非才を棚に上げて、駄文をアウトプットと称して公開するのは、厚顔無恥もほどがありますね(苦笑)。
佐藤さん曰く、高度に専門的な知識を「正確に」身につけるには、高校レベルの教科書と参考書で知識の欠損部分を把握し、「正しい知識」を身につける必要があるのだということです。
せっかく読書して勉強しても、間違った知識を身につけてしまっては、時間の無駄です。
なぜ読書術が知の技法のいちばん初めに位置づけられなくてはならないのだろうか。
それは、人間が死を運命づけられている存在だからだ。
でたらめな本は読んでも時間の無駄なので、早い段階で「読まない」という決断をしなくてはならない。速読術は、このような読む必要のない本を排除するために必要なのである。
些細な情報の誤りが致命傷となる外交における情報戦の世界。
佐藤さん流の読書術について全力を投球して書かれているだけでなく、物の見方・考え方、表現の仕方まで視野に入れて書かれていて、知の技法の入門書の決定版となっています。
「インテリジェンス」の世界に憧れて佐藤さんの読書術を実践するのは、なかなかクールな挑戦ではありませんか!
膨大な数がある佐藤さんの著書のなかでも、特に必読の1冊でしょう。
本日の記事は以上です。